痛くない!クライミングシューズ初心者おすすめ20選|サイズ選びの新常識
「レンタルシューズだと足が滑って登れない…」
「マイシューズが欲しいけれど、種類が多すぎて選べない」
「サイズ選びに失敗して、痛くて履けない靴を買いたくない」
今からマイシューズを購入しようと考えている際、このように悩んでいませんか?
実は、多くの初心者が店員や経験者の助言を鵜呑みにして「痛すぎるサイズ」を選んでしまい、足の痛みに耐えきれずクライミング自体を辞めてしまうケースが後を絶ちません。無理なサイズダウンは、むしろ上達の妨げになります。
そこで本記事では、国内外の最新トレンドや素材特性を徹底リサーチし、痛みを我慢せずに上達できる「サイズ選びの新常識」と「初心者おすすめモデル20選」を解説します。
この記事を読めば、通販や店舗で迷うことなく、あなたの足型や目的にフィットする失敗しない一足が必ず見つかります。
結論から言うと、初心者は「痛くないフラット型」かつ「ベルクロタイプ」の定番モデルを選び、まずは快適に登る楽しさを知ることが上達への最短ルートです。
マイシューズ購入でレンタル卒業により得られる3つのメリット

ボルダリングジムに通う頻度が増え、5級や4級の課題に打ち込むようになると、多くの人がレンタルシューズに対してある種の「限界」を感じ始めます。核心部分で足が滑ってしまったり、誰が履いたか分からないシューズの臭いが気になったりと、その悩みは尽きません。
実は、そうした違和感は決して間違いではなく、むしろクライマーとして順調にステップアップしている証拠です。マイシューズの購入は、単なる道具の所有にとどまらず、登る技術、衛生的な快適さ、そしてモチベーションの在り方を根本から変える重要な投資となります。なぜ脱・レンタルが上達への近道となるのか、まずはその決定的な3つのメリットについて整理していきましょう。
専用ゴムによるフリクションとエッジング性能の向上

レンタルシューズとマイシューズの決定的な違いは、ソール(靴底)に使われているゴムの性能にあります。多くのレンタルシューズは、不特定多数が毎日履くことを想定し、耐久性を最優先した「硬く、摩耗に強いゴム」が採用されています。そのため、どうしても摩擦力(フリクション)が低く、壁のホールドに対して滑りやすいという特性があります。
一方、マイシューズには、各メーカーが独自に開発した「高粘着・高摩擦ラバー」が使用されています。これにより、これまでは足が滑って落ちてしまっていたような傾斜のある壁や、表面がツルツルしたホールド(ボテなど)に対しても、吸い付くようなグリップ力を発揮します。
また、自分専用のシューズは靴の角(エッジ)が鋭く保たれているため、数ミリ単位の小さな突起に爪先を乗せる「エッジング」の精度が劇的に向上します。滑る恐怖心がなくなることで、腕の力に頼らず、しっかりと足に体重を預けて登れるようになり、結果として腕の消耗(パンプ)を抑えて長く登り続けられるようになります。「靴を変えただけで、今まで全く歯が立たなかった課題が一撃で登れた」という経験は、多くのクライマーが通る道です。
自分だけのフィット感と衛生面でのストレス解消

レンタルシューズは不特定多数の人が使用するため、どうしても衛生面での懸念がつきまといます。「誰かが履いた直後の生暖かさ」や「独特のニオイ」に抵抗を感じ、登る前の段階で心理的なブレーキがかかってしまうという人は少なくありません。自分専用のマイシューズを手に入れる最大のメリットの一つは、こうした生理的なストレスから解放され、常に清潔で快適な状態でクライミングに向き合えることです。
また、フィット感の向上は劇的です。耐久性重視で作られ、多くの人が履くことで生地が伸びきってしまったレンタルシューズとは異なり、マイシューズは履き込むほどにオーナーの足型に合わせて変形していきます。足とシューズの隙間が埋まり、まるで「第二の皮膚」のような一体感が生まれることで、レンタルでは感じられなかった足裏の繊細な感覚や、力がダイレクトにホールドへ伝わる快感を味わえるようになります。踵(かかと)が浮く不安感や、靴の中で足がズレるロスがなくなるだけでも、登りやすさは格段に変わるはずです。
道具への投資による上達スピードとモチベーション向上

マイシューズを手に入れることは、単なる道具の購入ではなく、これからのクライミングライフに対する「投資」です。この投資は、物理的な登りやすさだけでなく、メンタル面にも大きな変革をもたらします。
まず上達スピードの観点では、不確定要素の排除が大きなメリットとなります。レンタルシューズの場合、ホールドに乗った際に「足が滑るかもしれない」という不安が常に付きまといますが、マイシューズであればそのグリップ力を信頼して体重を預けることができます。「滑るかもしれない」というノイズが消えれば、純粋に身体の動かし方や重心移動に集中できるため、技術の習得速度が格段に上がります。「靴のせいで登れない」という言い訳ができなくなる環境を作ることは、自分自身の技術と真摯に向き合うための最短ルートです。
また、モチベーション向上においても、自分専用のギアを持つ効果は絶大です。気に入ったデザインのシューズを履くことは、ジムへ行く足取りを軽くし、「クライマー」としてのアイデンティティを確立させてくれます。安くはない初期投資を行うことで、「買ったからには続けよう」という良い意味でのプレッシャーが生まれ、三日坊主を防ぐ継続へのコミットメント(約束)にもなります。
これまで登れなかった課題が、シューズを変えた瞬間に驚くほどあっさり登れてしまうという「魔法のような体験」は、多くのクライマーが通過する儀式です。その成功体験こそが、より難しい壁へ挑む情熱の源泉となるでしょう。
初心者が上級者モデルを避けるべき理由と選び方の絶対条件

いざ「マイシューズを買おう」と決意し、ショップやネットを見ると、トップ選手が履いているような攻撃的な形状をした上級者モデルが目に留まるかもしれません。「どうせなら最初から一番良いものを買って、長く使いたい」と考えるのは自然なことですが、クライミングシューズにおいては、その選択は上達を妨げるばかりか、怪我のリスクすら高める危険な賭けとなります。
なぜなら、上級者向けモデルとエントリーモデルでは、設計思想が根本的に異なるからです。上級者モデルは、長年のトレーニングで鍛え上げられた強靭な足指の筋力や、繊細な足使いができる技術を前提に、極限のパフォーマンスを発揮するよう作られています。対して、まだ足裏の感覚や筋力が発達途上にある初心者がこれらを履くと、靴の性能を引き出せないだけでなく、無理な姿勢を強いられて足を痛めたり、正しいフォームを習得できなくなる恐れがあります。
最初の一足に求められるのは、プロ仕様のスペックではなく、発展途上の足を物理的に支えてくれる「サポート機能」です。まずはご自身の足のレベルに合った構造のシューズを選び、基礎を固めることが、結果として最も早く上級グレードへ到達するための近道となります。ここでは、初心者が必ずチェックすべき、失敗しないための3つの構造的条件について解説します。
ソール形状|足裏感覚が未熟な初心者にフラットが推奨される理由

初心者が最初に選ぶべきクライミングシューズの形状は、爪先が下を向いた「ダウントゥ」ではなく、靴底が平らな「フラット」タイプ一択です。
上級者が好むダウントゥ形状は、強傾斜の壁で足指を使ってホールドを「掻き込む」動作には有利ですが、その構造上、足指を常に極端に曲げた状態に強要します。足裏の感覚センサー(固有受容感覚)が未発達な初心者の段階でこのような窮屈な靴を履くと、痛みで「ホールドに正しく乗れているか」という情報が脳に伝わりにくくなってしまいます。
フラットなシューズであれば、自然な足の形で立つことができるため、足裏全体を使ってホールドの凹凸を感じ取る練習に最適です。また、無理な姿勢を強いられないため長時間履き続けることができ、結果としてジムでの練習量を確保しやすくなるというメリットもあります。まずは癖のないフラットな形状で、正しい足の置き方を覚えることが上達への近道です。
ソール剛性|足指の力をサポートする硬めのミッドソールの重要性

一見すると、柔らかいシューズの方が足に馴染みやすく、歩きやすいように感じるかもしれません。しかし、クライミングシューズにおいて初心者が選ぶべきは、適度な硬さ(剛性)を持ったミッドソールのモデルです。
これには、クライマー特有の「足の筋力」の発達段階が深く関係しています。熟練したクライマーは、長年のトレーニングによって足指でホールドを鷲掴みにする力(クリンプ力)が発達しており、柔らかい靴でも自らの筋力で体重を支え、繊細なコントロールを行うことができます。対して、初心者はまだこの足指の力が未発達です。この状態で柔らかすぎるシューズを履いてしまうと、小さな突起に全体重を乗せる際、足指が負けて反り返ってしまったり、姿勢を維持するために無駄な力を使ってすぐに疲弊してしまったりします。
そこで重要になるのが、靴底の「硬さ」による物理的なサポートです。剛性の高い硬めのミッドソールは、あたかも足の裏に板を当てているかのように骨格を補強してくれます。これにより、自身の筋力が十分でなくても、シューズの剛性が体重を受け止め、小さな足場(エッジ)にも楽に立ち込むことが可能になります。まずは硬めのソールで足を保護し、安定して立つ感覚を養うことこそが、怪我を防ぎながら効率よく上達するための賢明な選択です。
着脱タイプ|頻繁な脱ぎ履きに対応するベルクロの利便性

初心者がシューズを選ぶ際、ソールの形状や硬さと同じくらい重要なのが、靴を足に固定する「クロージャーシステム(着脱タイプ)」です。結論から言えば、最初の一足には「ベルクロ(面ファスナー)」タイプが最も推奨されます。
その最大の理由は、初心者のうちは想像以上に頻繁な脱ぎ履きが発生するためです。クライミングシューズは一般的なスニーカーとは異なり、高いパフォーマンスを発揮するために足を隙間なく拘束する構造になっています。そのため、たとえ快適なエントリーモデルであっても、長時間履き続けると足が圧迫され、痛みや疲れを感じやすくなります。
上級者であっても、課題を登り終えて休憩(レスト)する際にはこまめにシューズを脱ぎ、圧迫された足を解放して血流を回復させるのが一般的です。この「登る直前に履き、終わったらすぐ脱ぐ」というルーティンにおいて、ワンタッチで着脱できるベルクロの利便性は計り知れません。
他のタイプと比較すると、そのメリットはより明確になります。例えば「レースアップ(紐)」タイプは、足形に合わせて締め具合を細かく調整できる点で優れていますが、脱ぎ履きのたびに紐を結び直す手間がかかります。この面倒くささが心理的なハードルとなり、「痛いけれど脱ぐのが億劫だから我慢する」という状況を招きかねません。痛みを我慢して履き続けることは、足への負担だけでなく、クライミングそのものを嫌いになってしまう原因にもなります。
一方、紐もベルクロもない「スリップオン(スリッパ)」タイプは、着脱の速さは最強ですが、締め付け具合の調整が一切できません。使用に伴って生地が伸びてきた際に増し締めができず、踵(かかと)が脱げやすくなってしまうリスクがあります。
その点、ベルクロタイプは「素早い着脱」と「締め具合の調整」という、両者の良いとこ取りをしたバランスの良さが魅力です。テープを引く強さでその日の足のむくみ具合に対応でき、休憩中は瞬時にリラックスモードに切り替えられる。このストレスフリーな使い勝手こそが、初心者が挫折せずにジム通いを続けるための隠れた必須条件と言えるでしょう。
プロが教える痛くないサイズ選びの新常識とポイント

クライミングシューズ選びにおいて、初心者が最も頭を悩ませ、同時に失敗を恐れるのが「サイズ感」です。これまでの日本のクライミングシーンでは、「爪先が痛くなるほど小さなサイズを無理やり履くことこそが正義」とされる風潮がありました。しかし、スポーツ科学の進歩や用具の進化により、その常識は大きく変わりつつあります。
無理なサイズダウンは、苦痛によってクライミングそのものを嫌いにさせるだけでなく、足の神経や骨格に深刻なトラブルを招くリスクすらあります。ここでは、精神論ではなく論理的な根拠に基づいた、痛みを最小限に抑えつつ確実に上達するための「正しいフィッティングの基準」を解説します。
痛みで感覚を麻痺させないストリートサイズの推奨

これまで日本国内のショップやベテランクライマーの間では、「初心者の最初の一足であっても、爪先が少し曲がる程度のタイトなサイズ(実寸よりハーフサイズ下など)を選ぶべき」というアドバイスが一般的でした。しかし、現在では「痛みこそ正義」とする古い常識は否定されつつあり、「ストリートサイズ(普段履き)と同じサイズ感を選ぶ」という考え方が主流になっています。
その最大の理由は、足裏の「固有受容感覚(プロプリオセプション)」を正常に機能させるためです。固有受容感覚とは、自分の足が空間のどこにあり、ホールドにどのように接しているかを感じ取るセンサーのような能力です。初心者の段階で痛みを伴う窮屈なシューズを履くと、脳への信号が「痛み」というノイズで埋め尽くされ、繊細な足裏の感覚が麻痺してしまいます。その結果、自分がホールドのどの部分に乗れているかが分からなくなり、足を雑に置いたり、壁に擦り付けたりする悪い癖(ドラッギング)が定着しやすくなるのです。
上級者がタイトな靴を履くのは、すでに足の置き方が完成しており、極小の足場(エッジ)に立つために指先の剛性を極限まで高める必要があるからです。対して、初心者が優先すべきはパフォーマンスの最大化ではなく、「正確な足置き技術の習得」と「クライミングを嫌いにならないこと」です。
海外のインストラクターたちが提唱する「Comfort is key(快適さが鍵)」というスローガンの通り、最初の3ヶ月から半年は、指が曲がらずフラットな状態で履ける普段のスニーカーと同じサイズ(ストリートサイズ)を選びましょう。痛みによるストレスを排除し、足指の感覚を研ぎ澄ませて登るほうが、結果的に上達への近道となります。
素材の特性|天然皮革と合成皮革による伸び率の違いと計算

サイズ選びを成功させるために、足の大きさと同じくらい考慮しなければならない重要な要素が「アッパー素材の伸び率(ストレッチ性)」です。クライミングシューズは新品の状態が完成形ではなく、履き込んでいく過程で生地が伸び、足の形に馴染んでいくものだからです。しかし、この「伸びる幅」は使われている素材によって劇的に異なるため、あらかじめ計算に入れてサイズを選ばないと、「最初はぴったりだったのに、1ヶ月後にはブカブカになってしまった」という典型的な失敗を招くことになります。
大きく分けて、シューズのアッパー素材には「天然皮革(レザー)」と「合成皮革(シンセティック)」の2種類が存在し、それぞれの特性を理解することが不可欠です。
まず、多くのエントリーモデルに採用されている「天然皮革(レザー)」は、足への馴染みが非常に良く、履けば履くほど持ち主の足の形に合わせて伸びていく特性があります。特に、裏地(ライニング)が貼られていない「アンラインド・レザー」の場合、使用頻度にもよりますが、最終的にハーフサイズから最大で1サイズ(約0.5cm〜1.0cm程度)も大きく伸びることが珍しくありません。そのため、天然皮革のモデルを選ぶ場合は、新品の時点で「少し圧迫感がある」あるいは「隙間なくピタッとしている」程度のサイズ感を選んでおくのが定石です。最初から快適すぎるサイズを選んでしまうと、馴染んだ後に隙間が生じ、足元が不安定になってしまうリスクがあるからです。
一方で、「合成皮革(シンセティック)」や「マイクロファイバー」と呼ばれる人工素材は、耐久性が高く、型崩れしにくいという特性を持っています。天然皮革とは対照的に、これらの素材は使用を重ねてもほとんど伸びません。伸びたとしてもごくわずかで、フィット感の変化は最小限に留まります。したがって、合成皮革のモデルを選ぶ際に「後で伸びるだろう」と予測して小さめのサイズ(攻めたサイズ)を選んでしまうのは危険です。いつまで経っても生地が伸びず、痛みが解消されないまま履くのを諦めてしまうことになりかねません。この素材の場合は、最初から「痛みがなく快適に履けるジャストサイズ」を選ぶのが正解です。
このように、同じ「26.0cm」のシューズであっても、素材が革なのか合皮なのかによって、選ぶべき実質的なサイズ感は変わってきます。カタログやスペック表にある「アッパー素材」の項目を必ず確認し、その素材が将来的にどう変化するかを予測してサイズを決定することが、長く愛用できる一足に出会うためのプロの視点です。
足型とボリューム|指の形や甲の高さを考慮したモデル選び
サイズ選びにおいて、多くの初心者が陥りやすい最大の落とし穴が「足の実寸(縦の長さ)」だけでシューズを選んでしまうことです。しかし、足は平面ではなく複雑な立体構造をしています。たとえ長さが適正であっても、足指の並び方や甲の高さ(ボリューム)がシューズの木型(ラスト)と合っていなければ、激しい痛みやブカブカ感に悩まされることになります。失敗を防ぐためには、自分の足の「形」と「厚み」を理解し、それに適したモデルを見極める視点が必要です。
まず確認すべきは、足指の長さのバランスによって分類される「足型」です。日本人に最も多いとされる「エジプト型(親指が最も長い)」の人は、シューズの頂点が親指側に寄っているタイプと相性が良く、無理なく力を込められます。一方、「ギリシャ型(人差し指が親指より長い)」の人は、シューズの中心付近が最も長い、あるいは先端が尖った形状を選ばないと、長い人差し指が圧迫されて「突き指」のような状態になりかねません。また、すべての指の長さがほぼ揃っている「スクエア型」の人は、つま先部分の空間(トゥボックス)が広く設計されたモデルを選ぶことで、小指の痛みや爪のトラブルを回避できます。
次に、海外のレビューや専門的なフィッティングにおいて近年特に重視されているのが「ボリューム(足の厚み)」という概念です。同じ足のサイズ26.0cmの人でも、甲が高く肉厚な足(ハイボリューム)の人と、甲が薄く細身の足(ローボリューム)の人では、快適に履けるシューズは全く異なります。
甲が高い人が薄い足向けのモデルを履くと、アッパー部分が食い込んで激痛が走り、ベルクロの長さが足りずに止まらないという事態が発生します。逆に、甲が低い人が標準的なモデルを履くと、どんなにベルクロを締めても靴の中で足が浮いてしまい、ホールドに力を伝えられません。
この問題を解決するために、一部のメーカーでは同じモデルで「通常モデル」と「LV(ローボリューム)モデル」の2種類を展開しています。LVモデルは、一般的に女性用(Women’s)として販売されていることが多いですが、これは単にデザインや色が違うだけではありません。踵(かかと)が小さく、甲が低めに設計されているため、足幅が細い男性や踵が小さい男性にとっては、いわゆる「男性用モデル」よりも圧倒的にフィットする場合が多々あります。
カタログの「サイズ表」はあくまで長さの目安に過ぎません。試着の際は、つま先の当たり具合だけでなく、「甲部分に隙間がなく、かつ圧迫されすぎていないか」「踵が浮くことなく包み込まれているか」という立体的(3D)なフィット感を必ず確認してください。自分の足のボリュームに合った一足を選ぶことこそが、痛みなくクライミングを続けるための最短ルートです。
靴下の活用|初心者が防臭とフィット感調整で靴下を履くメリット

クライミング界には「シューズは素足で履くもの」という暗黙の了解が存在します。確かに上級者は、足裏の感覚を研ぎ澄ませ、微妙なホールドの凹凸を感じ取るために素足を選ぶ傾向にあります。しかし、初めてマイシューズを手にする初心者が、無理にそのスタイルを模倣する必要は全くありません。むしろ、衛生面とサイズ調整の観点から、最初のうちは靴下を着用することを強く推奨します。
最大のメリットは、多くのクライマーを悩ませる「臭い問題」への対策です。クライミングシューズは構造上、通気性が悪く、運動中の大量の汗が内部に籠もります。素足で履いた場合、汗や皮脂が直接シューズの内側に染み込み、バクテリアが繁殖して強烈な悪臭を放つ原因となります。一度染み付いた臭いは、たとえ洗っても完全に取り除くことは困難です。
靴下を履いていれば、汗の大部分を繊維が吸収してくれます。シューズ本体への汚れの移行を防げるだけでなく、使用後に靴下を洗濯機で洗うだけで常に清潔な状態を保つことができます。特に、毎日のように履くわけではない週1〜2回のジム通いであれば、このメンテナンス性の高さは非常に大きな利点となります。
また、靴下はフィッティングの微調整役としても優秀です。初めてのシューズ選びでは、サイズ感がわからず、わずかな隙間ができたり、逆に特定の場所が当たって痛かったりすることがあります。そのような場合、靴下の厚みを変えることでフィット感をコントロールできます。購入直後の硬いシューズで起こりやすい靴擦れから皮膚を守り、痛みを緩和するクッションの役割も果たしてくれるため、「痛くて登るのが嫌になる」という初期の挫折を防ぐことにも繋がります。
まずは薄手のスニーカーソックスなどを着用した状態で試着を行い、自分にとって快適なサイズを見つけることから始めましょう。足裏の繊細な感覚が必要になるのは、もっと小さな足場に乗るようになってからです。素足でのクライミングに挑戦するのは、シューズとクライミング自体に十分に慣れてからでも決して遅くはありません。
迷ったら選ぶべき初心者おすすめランキングTOP5
数あるクライミングシューズの中から、最初の一足として自信を持っておすすめできるモデルを厳選しました。選定の基準としたのは、多くのクライマーに支持されてきた「実績」、長時間履いていても苦痛を感じにくい「快適性」、そして国内のジムやショップでの「入手しやすさ」です。
ここでは、奇をてらったモデルではなく、基礎技術を習得するために必要な機能をバランスよく備えた「王道中の王道」を紹介します。これらの中から足に合うものを選べば、まず間違いはありません。
La Sportiva|Tarantula(タランチュラ)

世界中で最も多くのクライマーに愛用され、「最初の一足」として不動の地位を確立しているエントリーモデルの筆頭です。イタリアの名門ブランドが手掛けるこのシューズは、何よりも「履き心地の良さ」に重点を置いて設計されており、初心者が抱く痛みの不安を解消してくれる存在です。
基本スペックと特徴
アッパー素材: スエードレザー(天然皮革)
クロージャー: 2本ベルクロ
推奨足型: 全般(特に幅広・甲高にも馴染みやすい)
アッパーに使用されている上質なスエードレザーは非常にしなやかで、履けば履くほどユーザーの足の形に合わせて変形し、オーダーメイドのようなフィット感へと進化します。ソールには耐久性を重視した4mm厚のラバーを採用しており、初心者がやりがちな「壁に足を擦る動作(ドラッギング)」による摩耗にも強く、長期間使用できるコストパフォーマンスの高さも魅力です。
購入時の注意点
裏地のない天然皮革を使用しているため、使用に伴う「伸び」が顕著に出るモデルです。履き込むうちにハーフサイズから最大でワンサイズ程度緩くなる傾向があります。そのため、購入時は「少しタイトかな?」と感じるくらいのジャストサイズを選んでおくのが賢明です。最初から余裕のあるサイズを選んでしまうと、数ヶ月後には内部で足が動いてしまい、登りにくくなる可能性があります。
SCARPA|Origin VS(オリジン VS)

イタリアの老舗ブランド、スカルパが誇るエントリーモデルの決定版です。長年愛されてきた「オリジン」を現代的にアップデートしたこのモデルは、初心者がクライミングを快適に楽しむための機能が凝縮されています。
価格帯: 標準(エントリークラス)
アッパー素材: マイクロファイバー(合成皮革)
クロージャー: ベルクロ(一本締め)
最大の推奨理由は、アッパー素材に採用された「マイクロファイバー」によるサイズ感の安定性です。多くのクライミングシューズに使用される天然皮革は、履き込むと足に馴染んで伸びる性質がありますが、初心者にとってはその「伸び」を見越したサイズ選びが非常に困難です。対してマイクロファイバーは経年による伸びが非常に少なく、購入時のフィット感が長く持続します。「買った後にガバガバになってしまった」という失敗を未然に防げる点は、最初の一足として非常に大きなメリットです。
ソールは完全なフラット形状で、歩行時のような自然な姿勢で壁に立つことができます。また、足の甲を広く覆う大型のベルクロストラップは、高いホールド感と脱ぎ履きのしやすさを両立しており、ジムでの頻繁な休憩時にもストレスを感じさせません。
注意点として、前述の通り素材がほとんど伸びないため、「最初は痛いのを我慢して小さめを買う」という選び方は推奨されません。試着の段階で、不快な痛みがなく、かつ足全体が隙間なくフィットする「ジャストサイズ」を選ぶのが正解です。
Black Diamond|Momentum(モメンタム)

アッパー素材に独自の「エンジニアードニット」を採用し、クライミングシューズ特有の窮屈さや蒸れを解消した画期的なエントリーモデルです。まるで厚手の靴下を履いているかのような柔らかな足当たりが特徴で、「とにかく痛い靴は履きたくない」という初心者の切実な願いに応えてくれます。
基本スペック:
価格帯: お手頃(エントリー層向け)
アッパー素材: エンジニアードニット
クロージャー: ベルクロ(2本締め)
最大の魅力は、長時間履いていても苦にならない圧倒的な快適性です。ニット素材が高い通気性を確保しているため、ジムでの練習中に足が蒸れて不快になるのを防ぎます。生地自体が足の形に合わせて柔軟に伸縮するため、骨が出っ張っている部分が当たって痛むリスクも低く、購入直後から違和感なく登り始めることができます。また、ブラックダイヤモンドのギア開発技術が詰め込まれており、耐久性とエッジング性能のバランスも優れています。
注意点として、ニット素材は足馴染みが非常に良いため、最初はジャストフィットでも履き込むうちに若干のゆとりを感じる場合があります。試着の際は、隙間がないピタリとしたサイズ感を選ぶか、最初から靴下着用を前提に合わせておくと、長く良好なフィット感を維持できます。
SCARPA|Veloce(ヴェローチェ)

「痛くないシューズ」の代名詞として、近年のインドアクライミングシーンで爆発的な人気を誇るのがこのモデルです。これまでの常識を覆す「快適性」を最優先に設計されており、長時間履いていても苦痛を感じにくい、驚くほど柔らかい足入れを実現しています。
価格帯: ミドルクラス
アッパー素材: マイクロファイバー
クロージャー: シングルベルクロ
公式サイト
最大の特徴は、現代のジム事情に完全にマッチした性能です。最近のボルダリングジムでは、「ボテ」と呼ばれる巨大で滑らかなホールドが増えていますが、ヴェローチェは非常に柔らかいソールを採用しているため、こうしたホールドに対し足裏全体でピタッと吸い付くようなフリクション(摩擦)を発揮します。初心者でも足が滑る恐怖を感じにくく、安心して登ることができます。
注意点として、ソールが極めて柔らかいため、外岩にあるような針の先ほどの極小スタンスに立ち込むには、ある程度の足指の力が必要になります。あくまで「ジムでの快適さと上達」にフォーカスしたモデルと割り切りましょう。アッパー素材には伸びにくいマイクロファイバーが使われているため、サイズ選びでは最初から無理のないジャストサイズを選ぶのが正解です。
UNPARALLEL|Engage VCS(エンゲージ VCS)

かつてクライミングシューズ市場を席巻した名門ブランドの開発チームが新たに立ち上げた「アンパラレル」が、自信を持って送り出すエントリーモデルです。このシューズの最大にして最強の武器は、エントリークラスでありながら、上位のハイエンドモデルと同じ高摩擦ラバー「RHラバー」を採用している点にあります。
初心者が壁で最も恐怖を感じるのは、足を置いた瞬間に「滑るかもしれない」と不安になる瞬間です。エンゲージVCSに搭載されたRHラバーは、粘り気が強くグリップ力が非常に高いため、ツルツルしたホールドや傾斜のある壁でも吸い付くような安定感をもたらします。まさに「滑るのが怖い」というメンタルブロックを、道具の性能で物理的に解消してくれる一足です。
形状は素直なフラットソールで、着脱システムには調整幅の広いベルクロを採用しており、初心者が必要とする快適性と利便性も網羅されています。適度な剛性があるため、足の筋力が未発達な段階でも小さな足場に立ち込みやすく、ジムでのトレーニングから外岩での実践まで幅広く対応します。「レンタルシューズのように滑るのはもう嫌だ」と感じている脱・初心者層にとって、これ以上ない選択肢となるでしょう。
悩みや目的別に見るおすすめクライミングシューズ15選

ランキングで紹介したTOP5は「多くの人にとっての最適解」ですが、足の形や重視するポイントは千差万別です。「足幅が広くて普通の靴が入らない」「とにかく予算を抑えたい」「ジムでの上達に特化したい」など、より具体的な悩みや目的に寄り添った15足をご紹介します。
自分の足型や将来の目標に合致する「シンデレラフィット」の一足を探してみてください。
【幅広・甲高】Butora|Endeavor(エンデバー)

多くのクライミングシューズは欧米人の足型をベースに設計されているため、幅が狭く甲が低いモデルが主流です。そのため、典型的な日本人の足型である「幅広・甲高」のクライマーは、横幅に合わせるとつま先が余り、長さに合わせると小指が激痛に襲われるというサイズ選びのジレンマに陥りがちです。
韓国発のブランドButora(ブトラ)のEndeavorは、この問題を根本から解決するために、同じモデルで「タイトフィット(青)」と「ワイドフィット(モスグリーン)」の2種類の足幅展開を用意しているのが最大の特徴です。特にワイドフィットモデルは、足幅が広く甲が高い足型でも無理なく収まるボリュームを持っており、サイズを無駄に上げることなくジャストフィットさせることが可能です。
アッパー素材の一部にはヘンプ(麻)などのオーガニック素材が使用されており、通気性が良く臭いもこもりにくい設計になっています。ジグザグに配置されたベルクロは締め付けの調整がしやすく、足全体をしっかりと包み込みます。「どの海外ブランドの靴を履いても足が痛い」と悩んでいる人は、まずこのモデルを試してみる価値があります。
【幅広・甲高】Evolv|Defy(デファイ)

- 基本スペック: 価格帯:並 / アッパー素材:シンセティック(抗菌メッシュ) / クロージャー:ベルクロ(VCS)またはレース
- 推奨理由: 幅広・甲高の足型への適合性、独自の抗菌防臭機能
- 注意点: 合成素材のためアッパーの伸びが少ない(サイズ選びは慎重に)
海外ブランドのシューズは「幅が狭く、甲が低い」モデルが多い中で、アメリカ発のイボルブは比較的ゆったりとした足型を採用しているブランドです。その中でもベストセラーを誇るデファイは、日本人の足に多い「幅広・甲高」の悩みを完璧にカバーする救世主的な存在です。「他のメーカーでは足が入らなかった」「甲が当たって痛い」という経験がある人は、迷わずこのモデルを試着リストに入れてください。
また、デファイには初心者にとって非常に嬉しい「Agion®抗菌ライニング」が採用されています。これはメッシュ素材に抗菌加工を施したもので、長時間の使用によるバクテリアの繁殖を抑え、気になるシューズの臭いを軽減してくれます。通気性と快適性を兼ね備えており、長時間履き続けても不快感が少ないため、ジムでの練習に集中できる環境を整えてくれます。
注意点として、アッパー素材には高品質なシンセティック(合成皮革)が使用されているため、天然皮革のように履き込んでも大きく伸びることはありません。購入時のフィット感が長く続くため、最初から「痛みを我慢して攻める」のではなく、足の実寸に近い、快適に履けるジャストサイズを選ぶことが重要です。
【高コスパ】Mad Rock|Drifter(ドリフター)

- 価格帯: 低(最高クラスのコストパフォーマンス)
- アッパー素材: 天然レザー(本革)
- クロージャー: 2本ベルクロ
- 公式サイト
「続くかどうかわからない趣味に、いきなり2万円近い出費は厳しい」と考える堅実な初心者にとって、最強の選択肢となるのがマッドロックのドリフターです。市場に流通しているクライミングシューズの中でも圧倒的に手頃な価格設定でありながら、長年にわたり愛され続けているロングセラーモデルです。
価格が安いからといって性能が低いわけではありません。特筆すべきは、エントリーモデルとしては贅沢な「天然レザー(本革)」をアッパーに使用している点です。多くの安価なモデルが合成皮革を採用する中、ドリフターは履き込むほどに革が伸びて足の形に馴染むため、最終的にはオーダーメイドのようなフィット感を得られます。「安くても、道具としての愛着を持って育てたい」というユーザーに最適です。フラットなソールと適度な剛性は、ジムでの基本的なムーブを習得するには十分すぎるスペックを持っています。
注意点として、天然レザーは使用に伴い大きく伸びる性質があります。購入時は「少しキツいかな?」と感じる程度のサイズを選んでも、数回履けば足になじんで緩くなってきます。合成皮革のシューズと同じ感覚で最初からゆとりを持たせすぎると、後々ブカブカになってしまう可能性があるため、伸びしろ(経年変化)を計算に入れたサイズ選びが重要です。
【高コスパ】OCUN|Striker QC(ストライカー QC)

- 基本スペック: 価格帯:エントリー(高コスパ) / クロージャー:ベルクロ
- 推奨理由: 初心者の「痛み」と「予算」の両面を解決するモデル
- 注意点: 快適性重視の設計
チェコの実力派ブランド「オーツン」が送る、圧倒的なコストパフォーマンスを誇るエントリーモデルです。このシューズの設計思想は「ストレスフリー」にあり、特に初心者が痛みを感じやすい踵(かかと)部分への配慮が際立っています。ヒールカップ周辺のゴムの張力(テンション)があえて緩めに設定されているため、アキレス腱への食い込みや圧迫感が少なく、長時間履いていても苦痛を感じにくい構造になっています。
注意点として、全体的にマイルドなフィット感であるため、将来的に強傾斜で激しいヒールフックなどを多用するようになると物足りなさを感じるかもしれませんが、基礎を学ぶ段階ではこの快適さが大きな武器になります。「まずは安く、痛くない靴でクライミングを続けてみたい」という堅実な初心者のデビュー用として、非常に優秀な選択肢です。
【高コスパ】La Sportiva|Aragon(アラゴン)

「世界のトップクライマーが愛用するスポルティバのシューズを履きたいけれど、初期投資はなるべく抑えたい」という方に最適なのが、このアラゴンです。エントリーモデルとして必要な基本性能を凝縮しつつ、コストパフォーマンスを極限まで高めた隠れた名作です。
最大の特徴は、アッパー素材に天然レザー(スエード)を採用している点です。最新の化学繊維とは異なり、革は履き込むほどに繊維がほぐれて伸び、使用者の足の形に合わせて立体的にフィットしていきます。最初は既製品の硬さを感じるかもしれませんが、ジムへ通ううちに「自分専用のオーダーメイド」のような極上の履き心地へと育っていきます。2本のベルクロシステムにより着脱もスムーズで、初心者にとって扱いやすい設計です。
注意点として、天然皮革は使用に伴いハーフサイズから最大1サイズほど伸びる性質があります。そのため、購入時の試着では「痛くはないが、隙間なくピタッとフィットしている(ややタイト)」状態を選ぶのが、長く愛用するためのコツです。安価ながらも長く使える「相棒」を育てたい方におすすめの一足です。
【ジム特化】La Sportiva|Tarantula Boulder(タランチュラ ボルダー)

世界中で愛されるエントリーモデルの代名詞「タランチュラ」をベースに、現代のインドアボルダリングで求められる機能を徹底的に強化したアップデートモデルです。
最大の特徴は、初心者がつまずきやすい「立体的なムーブ」への対応力です。ノーマル版にはない「トゥラバー(つま先を覆うゴム)」が追加され、ヒールカップ(踵)の形状もよりスリムに改良されました。これにより、ジムの課題で頻出するヒールフックやトゥフックといったテクニカルな足技が、驚くほどかけやすくなっています。また、ソールが前後で分かれたセパレートタイプに変更されているため、靴全体の柔軟性が高く、ボテなどの大きなホールドに対し足裏全体で乗る動作もスムーズに行えます。
アッパー素材には足馴染みの良いスエードレザーを使用しており、履き込むほどに自分の足の形にフィットします。ただし、ラバーで補強されている面積が広いため、ノーマル版のタランチュラに比べると革の伸びしろはやや抑制されます。「伸びることを計算して攻める」よりも、最初から痛みのないジャストサイズを選ぶことで、このシューズが持つ快適性とテクニカルな性能を最大限に引き出せるでしょう。
【ジム特化】Black Diamond|Method(メソッド)

「とりあえず登れればいい」ではなく、「最初からジムの強傾斜壁(オーバーハング)に挑みたい」「早めに中級者レベルへ到達したい」という野心的なビギナーには、このメソッドが最適解です。
基本スペック:
価格帯:エントリーモデルとしては標準的
アッパー素材:エンジニアードニット
クロージャー:ベルクロ
推奨理由は、エントリーモデル特有の「快適さ」と、パフォーマンスモデルの「攻撃力」をハイブリッドしている点にあります。同ブランドの定番「モメンタム」と同じ通気性抜群のニット素材を使いつつ、ソール形状をわずかに「ダウントゥ(爪先下がり)」させることで、壁を足指で掴む(掻き込む)動作をサポートします。完全なフラットシューズでは足が離れてしまうような傾斜でも、この微細なカーブが武器となり、足を残しやすくなります。
注意点として、爪先が下がっている分、フラットな靴に比べて指先への圧迫感は強くなります。長時間履き続ける快適性よりも、登る瞬間のパフォーマンスを優先した設計であることを理解した上で、サイズ選びは慎重に行ってください。
【ジム特化】SCARPA|Reflex V(リフレックス V)

基本スペック: 価格帯:安〜並 / アッパー:ニットファブリック / クロージャー:ダブルベルクロ
公式サイト
「快適に登り続けられること」を徹底的に追求した、スカルパの現代的なエントリーモデルです。最大の特徴は、アッパー素材に採用された独自のニットファブリックです。一般的なレザーやマイクロファイバーのシューズに比べて圧倒的に通気性が高く、ジムの暖房が効いた環境や夏場のトレーニングでも足が蒸れにくいのがメリットです。
また、ニット特有の柔軟なフィット感が足を優しく包み込むため、新品の状態でも痛みが出にくく、長時間の着用でもストレスを感じさせません。ソールはフラットで癖がなく、インドアクライミングに必要なフリクション性能も十分に備えています。「足の臭いが気になる」「練習中の蒸れが不快」という衛生面や快適性を重視するジムクライマーには最適な選択肢です。
注意点として、アッパーのニット素材は使用に伴う伸びが天然皮革ほど大きくはありません。最初から極端に小さいサイズを選ぶと、馴染むまでの痛みが強くなる可能性があります。実寸に近いサイズか、靴下を履いてジャストフィットするサイズ感を選ぶことで、このシューズの持つ快適性を最大限に活かすことができます。
【外岩対応】La Sportiva|Finale(フィナーレ)

- 価格帯: ミドルレンジ
- アッパー素材: スウェードレザー
- クロージャー: レースアップ
- 公式サイト
ジムでのトレーニングだけでなく、週末は自然の岩場(外岩)にも挑戦してみたいと考えているなら、このフィナーレが最有力候補になります。最大の特徴は、エントリークラスとしては珍しいレースアップ(靴紐)タイプであることです。ベルクロに比べて脱ぎ履きの手間はかかりますが、つま先から甲まで締め具合をミリ単位で調整できるため、自分の足の形に吸い付くような極上のフィット感を得られます。
ソールは定番の「タランチュラ」よりも少し硬めに設定されており、体重を預けても負けない剛性があります。これにより、外岩特有の微細な突起(結晶)に立ち込む「エッジング」という動作が安定しやすく、足裏の筋力が未発達な初心者でも岩の上にしっかり立つ感覚を掴めます。長時間履いていても疲れにくい「コンフォートモデル」としての側面も持ち合わせているため、長時間の着用が前提となるリードクライミング(ロープクライミング)にも最適です。
注意点として、アッパーには上質なスウェードレザー(天然皮革)を使用しているため、履き込むと足の形に合わせて革が伸び、サイズ感が変化します。最初は「少しタイトだが痛みはない」程度のサイズを選んでおくと、革が馴染んだ後にオーダーメイドのような一体感が生まれます。初めての一足から本格的なクライミングライフを見据える人に推奨したいモデルです。
【外岩対応】Evolv|Kronos(クロノス)

基本スペック: 価格帯:標準 / アッパー:合成皮革(ヴィーガンフレンドリー) / クロージャー:シングルストラップ・ベルクロ
推奨理由: ジムでの練習を経て、いずれは自然の岩場(外岩)にも挑戦してみたいと考えている野心的な初心者に最適な一足です。多くのエントリーモデルが「快適さ」のみを優先する中で、このクロノスは「エッジング(小さな岩の突起に乗る力)」と「履き心地」を高次元で両立させています。特筆すべきは、一本のベルトで足の甲全体を締め上げることができる独自のクロージャーシステムで、フィット感の微調整が容易です。テクニカルな動きにも対応できるため、中級レベルに達しても買い替えることなく長く愛用できます。
注意点: アッパー素材には伸びにくい合成素材が使用されています。天然皮革のように履き込むことで大きく伸びることはないため、サイズ選びでは最初から「痛みがなく、かつ隙間がない」ジャストサイズを選ぶのが鉄則です。
【快適性】Tenaya|Tanta(タンタ)
基本スペック: 価格:エントリークラス / アッパー:マイクロファイバー / クロージャー:ベルクロ
推奨理由: 「世界一快適なシューズを作る」というブランド哲学を持つ、スペイン・テナヤ社のエントリーモデルです。初心者がクライミングを挫折する最大の原因である「足の痛み」を徹底的に排除した設計が魅力で、長時間履き続けてもストレスを感じにくい柔らかな履き心地を実現しています。また、海外ブランドの中では比較的細身の足型を採用しているため、足幅が狭い人や、他のモデルで踵が余ってしまった経験がある人には、オーダーメイドのようなフィット感を得られる可能性があります。
注意点: 快適性を重視している分、極端に幅広の足を持つ人は横幅に圧迫感を感じる場合があります。アッパー素材は伸びにくいマイクロファイバー製のため、サイズ選びでは「伸びて馴染む」ことを期待して小さめを選ぶのではなく、最初から痛みのないジャストサイズを選ぶのが鉄則です。
【快適性】Tenaya|Arai(アライ)

スペインのブランド「テナヤ」は、「痛みはパフォーマンスの敵である」という哲学を持っており、このアライもその思想を色濃く反映しています。基本スペックとしては、脱ぎ履きが容易なベルクロタイプで、足全体を優しく包み込むようなフィット感が特徴です。
推奨する最大の理由は、エントリーモデルでありながら「わずかなダウントゥ(爪先下がり)」の形状を取り入れている点です。通常、ダウントゥの靴は窮屈で痛みを伴いますが、アライはフラットシューズのような快適さを維持したまま、爪先に力が伝わりやすい構造を実現しています。これにより、初心者が壁の傾斜(オーバーハング)に挑戦する際も、足がホールドから離れにくく、スムーズな足運びをサポートしてくれます。「痛い靴は履きたくないが、最初から少しテクニカルな動きも練習したい」という向上心のあるユーザーに最適です。
注意点として、快適性が高いためにサイズを攻めたくなりますが、ダウントゥ形状の特性を活かすには無理のないサイズ選びが重要です。アッパー素材には馴染みの良い素材が使われていますが、極端に伸びるわけではないため、最初から痛みのないジャストサイズを選ぶのが、長く愛用するための秘訣です。
【快適性】Red Chili|Ventic Air(ベンティック エア)

アッパー素材: ポリエステルニット / クロージャー: 2本ベルクロ
公式サイト
国内では登山用品大手のモンベルが取り扱うドイツブランド、レッドチリのエントリーモデルです。このシューズのアイデンティティは、商品名の通り「空気(Air)」のような通気性と軽快な履き心地にあります。
アッパー素材には、一般的なレザーや合皮ではなく、通気性に優れた特殊なニット生地を採用しています。これにより、長時間履き続けてもシューズ内が蒸れにくく、不快な湿気がこもるのを防ぎます。また、ニット特有の柔軟性が足の形に合わせて優しくフィットするため、購入直後から足馴染みが良く、初心者が最も苦痛に感じる「硬い靴による締め付け」が極限まで抑えられています。
ソールはフラットで癖がなく、どんな足型の人にも合いやすいニュートラルな設計です。全国のモンベルストアで試着が可能というアクセスの良さも、サイズ選びに失敗したくない初心者にとっては大きなメリットと言えるでしょう。
注意点として、アッパーが非常に柔らかいため、足指で極小の突起に乗るようなシビアな場面では、靴の中で足が動きやすく感じる場合があります。剛性よりも快適性を最優先したいユーザー向けの選択肢です。
【快適性】Red Chili|Sausalito(サウサルリート)

クライミングシューズ業界でも極めて珍しい、画期的なサイズ調整機能を搭載した「失敗しない一足」です。ドイツのクライマーによって設立されたレッドチリは、履き心地の良さに定評がありますが、このサウサルリートはその快適性を極限まで追求しています。
基本スペック: エントリーモデル / ベルクロタイプ / 公式サイト
最大の特徴は、踵(かかと)部分に搭載された「サイズ調整用ストラップ」です。通常、クライミングシューズは一度サイズを選んでしまうと、足がむくんだり靴下を変えたりした際の微調整は不可能です。しかし、本モデルはヒール側のベルクロを締めることでフィット感を後から変更できるため、「午前中は素足でタイトに、夕方むくんだら緩めて、寒い日は厚手の靴下で」といった柔軟な使い方が可能です。
この機能は、まだ自分の適正サイズが定まっていない初心者にとって強力な保険となります。特に「買った後に痛くて履けなくなるのが怖い」という方や、成長期で足のサイズが変わる可能性があるお子様にとって、これほど安心できる選択肢はありません。日本国内ではモンベルが正規代理店となっており、試着や購入がしやすい点も大きなメリットです。
注意点として、ヒール部分が調整式であるため、上級者が行うような強力なヒールフック(踵をホールドに引っ掛ける技術)にはやや不向きな構造です。しかし、まずは「痛くない靴でクライミングを楽しむ」という初期段階において、この汎用性の高さは何物にも代えがたい価値があります。アッパーには抗菌加工されたメッシュ素材が使われており、気になる蒸れや臭い対策も万全です。
【快適性】UNPARALLEL|UP-Mocc(アップモック)

かつてクライミング界を一世風靡した伝説的なスリッパモデルの遺伝子を継ぐ、究極のシンプリシティを体現した一足です。このシューズの最大のメリットは、ベルクロや靴紐を一切排除したスリップオン構造による、圧倒的な脱ぎ履きのしやすさにあります。
ジムでのクライミングは「登る」と「休む」の繰り返しです。休憩のたびにシューズを脱いで足をリラックスさせたいと考える初心者にとって、手を使わずとも着脱できるほどの快適性は、長時間のジム滞在におけるストレスを劇的に軽減してくれます。また、アッパー素材には最高品質の北米産プレミアムレザーを使用しており、履き込むほどに自分の足の形へ完璧にフィットしていく「育てる楽しみ」も味わえます。
機能面では、余計なパーツがない分、足裏の感覚がダイレクトに伝わるのが特徴です。ホールドを「踏む」というよりも足の指で「掴む」ような感覚を養いやすく、自然と足指の力が鍛えられるため、上達志向の強いクライマーがトレーニング用としてあえて選ぶことも多いモデルです。
注意点として、天然皮革(レザー)をアッパー全面に使用しているため、使用に伴いサイズが大きく伸びる傾向があります。購入時は「少しキツいかな」と感じる程度のサイズを選び、時間をかけて足に馴染ませていくのが正解です。最初は窮屈かもしれませんが、馴染んだ後のフィット感は、まるで第二の皮膚のような一体感をもたらしてくれます。
失敗しないための実店舗での試着手順と購入時の注意点
ご自身の足に合う候補モデルは見つかりましたでしょうか。しかし、ここからがクライミングシューズ選びにおける本当の正念場です。一般的なスニーカーや革靴とは異なり、クライミングシューズは数ミリのサイズ差がパフォーマンスや痛みに直結する、極めてシビアな道具だからです。
「どのモデルを買うか」が決まっていても、「どこで、どのように試着して購入するか」という最終プロセスを誤れば、これまでの検討は水の泡になりかねません。知識を持たずに店舗へ行き、何となく足が入ったからという理由だけで購入してしまうと、「ジムで実際に登り始めたら痛すぎて履けない」あるいは「すぐに緩くなって登りづらい」といった失敗に繋がります。
これから解説する手順は、決して難しいものではありませんが、知っているかどうかで成功率が格段に変わります。無駄な出費と後悔を防ぎ、あなたにとっての「最高の一足」を確実に手に入れるための、実店舗での具体的な立ち回り方とチェックポイントを確認していきましょう。
通販のリスクと石井スポーツなどおすすめ実店舗の利用

クライミングシューズは一般的なスニーカーとは異なり、同じサイズ表記であってもメーカーやモデルによって実際の大きさや足入れ感が劇的に異なります。特に初めて購入する場合、0.5cmのサイズミスが「痛すぎて履けない」あるいは「緩すぎて登れない」という致命的な失敗に直結するため、ネット通販での購入は非常にリスクが高い「ギャンブル」だと言わざるを得ません。
最初の一足は、必ず実店舗に足を運び、実際に試着をしてから購入することを強く推奨します。購入場所として特におすすめなのが、「石井スポーツ」や「好日山荘」といった全国展開している登山・アウトドア用品専門店です。これらの店舗はクライミングシューズの在庫が豊富で、知識を持った専門スタッフが常駐していることが多く、初心者の足の特徴に合わせたモデル選びをサポートしてくれます。
また、大規模なクライミングジム(PUMP、B-PUMPなど)に併設されているプロショップも有力な選択肢です。実際に登っているスタッフからアドバイスを受けられ、店舗によってはそのまま壁で試登させてもらえる場合もあります。通販を利用するのは、自分の適正サイズを完全に把握した2足目以降、もしくは実店舗で試着を済ませた後だけに留めるのが、無駄な出費と後悔を防ぐための鉄則です。
※東京近郊にお住まいであれば、目黒にあるカラファテというお店がもっともおすすめです。おそらく国内では一番の品揃えで、ほぼすべてのモデルとサイズが揃っており、スタッフの方が親身に相談に乗ってくれます。全く知識のない初心者でも安心して買い物ができるでしょう。
足がむくむ夕方以降の来店と靴下持参の重要性

試着に行く時間帯は、足のサイズが1日の中で最も大きくなる「夕方以降」を狙うのが鉄則です。人間の足は、重力の影響で血液や水分が下半身に溜まり、朝と夕方では0.5cm〜1.0cmほどサイズが変わることも珍しくありません。
普段履きのスニーカーであれば多少のゆとりがあるため気になりませんが、実寸に近いタイトなサイズ感を選ぶクライミングシューズにおいて、この「むくみ」による誤差は致命的です。午前中にジャストサイズだと思って購入した靴が、仕事終わりのジムで履こうとしたら痛すぎて入らない、という悲劇は初心者の失敗談として非常によくあります。そのため、可能な限り会社帰りや、十分に歩き回った後の夕方にショップへ足を運ぶことを強くおすすめします。
また、来店時には必ず「クライミング時に履く予定の靴下」を持参してください。
ショップによっては試着用の靴下を貸してくれる場合もありますが、それらは極薄のナイロン製であったり、多くの人が使って伸びきっていたりと、実際にあなたが使用するものとは厚みが異なるケースが大半です。クライミングシューズはミリ単位のフィット感を調整するギアであるため、靴下の厚さがわずかに違うだけでサイズ選びの前提が崩れてしまいます。
特に初心者のうちは、素足ではなく靴下を履いて登ることが多いため、普段ジムでレンタルシューズを履く際に使っているスポーツソックスや、今後メインで使いたい靴下を持参し、本番と同じ環境を再現して試着に臨むことが、購入後の「こんなはずじゃなかった」を防ぐ防波堤となります。
店員に伝えるべきクライミング経験と予算の情報

プロショップの店員は、あなたの足の特徴とスキルレベルを一目で見抜く専門家ですが、彼らを最大限に活用するためには、こちらの情報を正しく伝える「準備」が不可欠です。漠然と「おすすめはありますか?」と聞くだけでは、店員も数ある在庫の中からどれを提案すべきか絞りきれません。最短距離で運命の一足に出会うために、以下の3点は必ず伝えましょう。
まず最も重要なのが、具体的な「クライミング経験と現在のグレード(級)」です。「今日が初めてです」という完全な初心者なのか、「レンタルシューズで週1回、2ヶ月通っていて、5級が登れるようになりました」というステップアップ層なのかによって、推奨されるモデルは劇的に変わります。特に「レンタルだと滑って困る」といった具体的な悩みがあれば、それを解決できるグリップ力の高いモデルを優先して提案してもらえるでしょう。見栄を張らず、ありのままのレベルを伝えることが、無理のないサイズ選びへの第一歩です。
次に明確にしておきたいのが「予算」です。エントリーモデルの相場は概ね1万5千円から2万円前後ですが、中にはさらに安価なモデルや、少し高価な高機能モデルも存在します。「予算は2万円以内で探しています」と最初に宣言することで、選択肢を現実的な範囲に絞り込むことができます。また、ソックスやチョークバックなども合わせて購入する予定がある場合は、トータルの予算を伝えておくとスムーズです。
最後に、「今後の目標や頻度」も伝えておくとベターです。「週に1回、趣味として長く楽しみたい」のであれば快適性重視のモデルを、「とにかく早く上達して3級を登りたい」のであれば、少しタイトで攻撃的なモデルを提案してくれるはずです。これらの情報をセットで提示することで、店員とのミスマッチを防ぎ、納得感のある買い物が実現します。
踵の浮きやつま先の痛みを確認する最終チェックリスト

試着室で足を入れた際、単に「入ったかどうか」だけで判断するのは危険です。実際に壁を登る動作を想定し、以下の手順で細部をチェックすることで、購入後のミスマッチを防ぐことができます。
まず、ベルクロをしっかりと締めた状態で立ち上がり、つま先のフィット感を確認します。アッパーの上から指で触れてみて、つま先や甲の部分に余計な隙間(空気の層)がないかチェックしてください。クライミングシューズは足と一体化することが求められるため、靴の中で指が遊んでしまう隙間はNGです。指先が軽く曲がっている状態が理想ですが、一点に集中する鋭い痛みや、血流が止まるような痺れを感じる場合は、ハーフサイズ上げることを検討してください。
次に、その場でつま先立ちを行い、踵(かかと)の状態を確認します。体重をつま先に乗せた際、踵がシューズから浮いて隙間ができたり、脱げそうになったりする感覚がある場合は、サイズが大きいか、ヒールカップの形状が足に合っていません。ヒールフックを多用する現代のボルダリングにおいて、踵の浮きは致命的な弱点となります。逆に、アキレス腱に食い込みすぎて激痛が走る場合も避けるべきです。
最後に、可能であれば店内の試登用ホールドや小さな段差に乗り、実際に体重をかけてみてください。踏み込んだ瞬間にシューズの中で足がズルッと回転してしまう感覚(ズレ)がないかが重要な判断基準となります。また、片足だけでなく両足とも履いた状態で5分〜10分ほど店内を歩いたり座ったりさせてもらいましょう。履いた瞬間は良くても、数分で耐え難い痛みが出てくることがあります。「少し痛いが、10分程度なら履き続けられる」という感覚が、馴染ませていく上での適切なラインです。
購入後の痛み緩和と臭いを防ぐメンテナンス術

念願のマイシューズを手に入れたとしても、それで終わりではありません。クライミングシューズは一般的なスニーカーとは異なり、購入直後は「未完成」の状態に近いと言えます。自分の足の形に合わせて素材を馴染ませ、適切なコンディションを保つことで初めて、その性能を100%発揮できる道具です。
しかし、多くの初心者が「痛すぎて履くのが億劫になる」「激しい臭いで持ち運ぶのが辛い」といったトラブルに直面し、ジムから足が遠のいてしまうケースも少なくありません。ここでは、シューズを「苦痛の種」にせず、長く愛用するための実践的なケア方法と、寿命を見極めるポイントについて解説します。
ビニール袋を活用した足が痛い時の慣らし方
購入直後のシューズ、特にサイズを攻めたモデルや伸びにくいラバーがついたモデルは、足を入れるだけで一苦労です。無理に足を押し込もうとすると、ヒールカップを潰してしまったり、指の皮が擦れて痛みを伴ったりします。そこで有効なのが、薄手のビニール袋(コンビニ袋など)を使ったテクニックです。
素足、あるいは薄手の靴下の上からビニール袋を履き、その状態でシューズに足を入れてみてください。驚くほど摩擦が減り、スルリと踵まで収まるはずです。足が入ったら、余分なビニールを引きちぎるか、そのまましばらく履いて足の体温でシューズを温めます。これにより素材が軟化し、足の形に馴染みやすくなります。
最初のうちは、ジムで登らなくても自宅でテレビを見ながら15分程度履くだけでも十分な「慣らし(ブレイクイン)」になります。決して最初から長時間履き続けようとせず、痛くなる前に脱ぐことを繰り返して、徐々に自分の足型へと育てていきましょう。
乾燥と消臭パウダーによる切実な臭い問題への対策
クライミングシューズは素足に近い状態で履くことが多く、運動による大量の汗を吸収します。さらに密閉性が高いため、使用後にそのままシューズバッグに入れて放置すると、内部が高温多湿になりバクテリアが爆発的に繁殖します。これが、あの強烈な悪臭の原因です。
最も重要な対策は「乾燥」です。ジムから帰ったらすぐにバッグから出し、風通しの良い日陰でしっかりと内部まで乾燥させてください。直射日光はゴムの劣化を早めるため厳禁です。新聞紙や乾燥剤(シリカゲル)を詰めておくと、湿気をより早く除去できます。
すでに臭いが気になり始めた場合は、靴用の消臭パウダー(白い粉末状のもの)が非常に効果的です。バクテリアの繁殖環境を根本から抑える効果が期待できます。また、シンセティック(合成繊維)素材のモデルなど、水洗いが可能なシューズであれば、定期的に中性洗剤で優しく手洗いするのも一つの手です。ただし、本革製品は水洗いで硬化や縮みが発生するリスクがあるため、必ずメーカーの推奨する手入れ方法を確認してください。
つま先のゴム消耗で見極める寿命と買い替えのタイミング
初心者のうちは、ホールドに足を置く際に壁にシューズを擦ってしまう「ドラッギング」という動作が多くなりがちです。そのため、上級者よりも圧倒的に早くつま先のゴムが消耗します。シューズの寿命を正しく見極めることは、怪我の防止とコストパフォーマンスの両面で重要です。
買い替えやリソール(靴底の張り替え)を検討すべきサインは、つま先のソール(底のゴム)が減り、アッパーとの境界線(ランドと呼ばれる外周のゴム)が見え始めたタイミングです。さらに摩耗が進み、ランドに穴が空いて中の生地や指が見えてしまうと、修理が不可能になるか、高額な修理費がかかってしまいます。
エントリーモデルの場合、リソール代(数千円〜1万円弱)と新品購入費を比較すると、買い直した方が経済的なケースも多々あります。しかし、履き込んで足に馴染んだアッパーは代えがたい資産でもあります。「穴が空く手前」が限界ラインであることを意識し、日頃からつま先部分の減り具合をチェックする習慣をつけましょう。
ビニール袋を活用した足が痛い時の慣らし方

新品のクライミングシューズを手に入れた直後、多くの初心者が直面するのが「足を入れることすら困難なほどの硬さ」です。サイズ選びが適切であっても、まだ自分の足型に馴染んでいない新品のシューズは、履く際のアキレス腱や指の関節への摩擦が強く、登り始める前に痛みで心が折れそうになることも珍しくありません。
そこでおすすめしたいのが、コンビニやスーパーでもらえる薄手のビニール袋を活用したテクニックです。方法は非常にシンプルで、素足、あるいは靴下を履いた足の上からビニール袋を被せ、そのままシューズに足を滑り込ませるだけです。通常なら強い摩擦で引っかかる踵(かかと)部分が、ビニールの滑りやすさによって驚くほどスムーズに収まります。無理やり足をねじ込む必要がなくなるため、皮膚へのダメージを防げるだけでなく、シューズのヒールカップを潰してしまうリスクも大幅に軽減できます。
足が入ったら、そのままビニール袋を引き抜いて登ることもできますが、まだ激しい痛みが伴う場合は、袋を履いたまま自宅で「家履き」をして慣らすのが効果的です。テレビを見たり読書をしたりしながら、1回10分〜15分程度履いて過ごすことで、足の体温と湿気が革やゴムに伝わり、徐々に自分の足の形へと成形されていきます。ビニール袋があることで不快な摩擦がなくなり、純粋に「シューズの形状に足を慣れさせる」ことに集中できるため、ジムデビュー前の準備運動として非常に有効な手段となります。
乾燥と消臭パウダーによる切実な臭い問題への対策

クライミングシューズは、足のホールド感を高めるために通気性が犠牲になっている構造上、どうしても内部が蒸れやすく、強烈な臭いが発生しやすい環境にあります。特に素足で履いている場合や、吸湿性の低いシンセティック(合成繊維)素材のモデルを使用している場合、汗と皮脂を餌にバクテリアが繁殖し、放置すると洗っても取れないほどの悪臭を放つようになります。この「臭い問題」は、自分自身の不快感だけでなく、ジム内での周囲への配慮としても切実な課題です。
最も基本的かつ重要な対策は、使用後の「即時乾燥」です。ジムから帰宅したら、すぐにシューズをバッグから取り出し、風通しの良い日陰で乾燥させてください。この際、早く乾かしたいからといって直射日光に当てたり、ドライヤーの熱風を浴びせたりするのは厳禁です。ソールのゴムや接着剤が高温で劣化し、剥がれの原因となります。サーキュレーターの風を当てるか、シューズ用の乾燥剤(シリカゲルやヒノキチップ)を中に入れ、内部の湿気を完全に抜くことを習慣にしましょう。
乾燥させても臭いが取れない場合や、予防を徹底したい場合には、パウダータイプの消臭剤が劇的な効果を発揮します。一般的な液体スプレーは一時的なマスキング効果に留まることが多いのに対し、「グランズレメディ」に代表されるパウダー製品は、臭いの元となるバクテリアの繁殖環境そのものを抑制する働きがあります。クライマーの間では「魔法の粉」とも呼ばれる定番アイテムで、練習後にスプーン一杯分を靴の中に散布しておくだけで、驚くほど無臭の状態を保つことができます。
また、どうしても汚れが気になる場合は水洗いを検討することになりますが、素材による見極めが不可欠です。シンセティック素材のモデル(モメンタムなど)は比較的洗いに強いですが、天然皮革のモデル(タランチュラなど)は、水を含むと革が硬化したり縮んだりしてフィット感が変わってしまうリスクがあります。レザー製の場合は、硬く絞った布で内部を拭く程度に留めるか、洗うとしても半年に一度程度、レザー専用の洗剤を用いて慎重に行うのが賢明です。清潔さを保つことは、シューズの寿命を延ばすことにも直結します。
つま先のゴム消耗で見極める寿命と買い替えのタイミング

クライミングシューズの寿命は、使用頻度や登り方によって大きく異なりますが、初心者にとって最も分かりやすい指標は「つま先の消耗具合」です。特に足の使い方が定まっていない時期は、ホールドを探して壁に足を擦り付ける「ドラッギング」が頻発するため、ソール全体が均一に減るよりも先に、つま先の一点だけが急速に摩耗していきます。
交換のサインは段階的に現れます。まず、購入時は鋭角だったつま先のエッジ(角)が丸くなり、小さな足場に立ち込んだ際に「ヌルッ」と滑る感覚が増えてきます。この段階ではまだ使用可能ですが、本来のエッジング性能は失われつつあります。さらに消耗が進み、底面のラバーが薄くなってアッパー素材(靴本体の生地)との境界線まで削れ、穴が空いて中の生地や指が見えそうになったら、即座に使用を中止すべき寿命です。
ここで多くの初心者が直面するのが「リソール(靴底の張り替え修理)に出すか、買い替えるか」という選択です。一般的なリソール費用は、送料を含めると7,000円〜9,000円程度かかります。1万円台前半で購入できるエントリーモデルの場合、修理費が新品価格の半分以上を占めることになるため、経済的な観点からは「履き潰して買い替え」の方がコストパフォーマンスに優れるケースがほとんどです。
また、最初のシューズに穴が空く頃には、アッパー素材も伸びてフィット感が緩くなっており、何よりあなたの足の筋力や技術も購入時より格段に向上しているはずです。最初の1足は上達のための消耗品と割り切り、無理に修理して使い続けるよりも、今のレベルに合った新しいモデル(2足目)へのステップアップを検討する絶好のタイミングと捉えましょう。
クライミングシューズ購入に関するよくある質問

基本的な選び方やメンテナンスについては解説しましたが、実際の購入場面では個別の事情や将来を見据えた疑問が浮かぶものです。ここでは、初心者の方から特によく寄せられる質問に対し、専門的な視点から回答します。
最初からソリューションなどの中級者モデルを買っても良いか
憧れの選手が履いているハイエンドモデルや、強いダウントゥ(爪先が下がった形状)の靴を最初から履きたいという気持ちは理解できます。しかし、基本的にはおすすめしません。
最大の理由は「痛み」と「技術習得の妨げ」です。上級者モデルは、足指を極端に曲げて(クリンプ状態で)詰め込むことを前提に設計されており、慣れていない初心者の足には激痛を伴います。痛みに耐えながらでは、丁寧な足置きの練習どころではありません。また、高性能なシューズはソールの一点に力が集中するよう作られていますが、これを使いこなすには相応の足指の筋力が必要です。まずはフラットなシューズで、ホールドに乗る感覚と基本的な筋力を養うことが、結果的に上達への近道となります。
ジム用と外岩用でシューズを使い分けるべきか
最初の1足に関しては、使い分ける必要はありません。ジムと外岩(アウトドア)を兼用して徹底的に使い倒してください。
確かに外岩で使用すると、泥汚れが付着したり、鋭利な岩肌でラバーの摩耗が早まったりするため、中級者以上は「ジム用」と「本気トライ用(外岩用)」を使い分けるのが一般的です。しかし、初心者のうちはまず「自分の靴の感覚」に完全に慣れることが最優先です。環境が変わるたびに靴を変えると、足裏感覚の微調整が難しくなり、パフォーマンスが安定しません。最初のシューズは「上達のための練習用」と割り切り、ジムでも岩場でも同じ靴で経験値を積むのが良いでしょう。汚れが気になる場合は、岩場から帰った後にソールを水拭きすれば、ジムでも問題なく使用できます。
男性がレディースモデルを履いても問題はないか
全く問題ありません。むしろ、足型によっては積極的に選択肢に入れるべきです。
多くのメーカーにおいて「Women’s」や「LV(ローボリューム)」という表記は、単に女性向けのデザインという意味ではなく、「踵が小さく、甲が低く、足幅が細め」に設計されていることを指します。現代の男性、特に痩せ型の方の中には、メンズモデル(通常ボリューム)だと踵が余ってしまったり、ベルクロを締め切っても甲に隙間ができたりするケースが少なくありません。フィット感が命のクライミングシューズにおいて、性別という枠にとらわれる必要はありません。自分の足に隙間なくフィットするかどうかを最優先基準として、レディースモデルも躊躇なく試着してみてください。
2足目のシューズを購入する最適なタイミングはいつか
「1足目が物理的に寿命を迎えた時」が第一のタイミングですが、技術的な観点からは「傾斜の強い壁で足が残せなくなった時」が目安となります。
ジムに通い始めて半年から1年ほど経ち、4級や3級といった中級グレードに挑戦し始めると、強傾斜(オーバーハング)の壁で足をホールドに引っ掛けて体を引き寄せる「かき込み」動作が必要になります。フラットなエントリーモデルではこの動きが構造的に難しく、足が切れてしまう(壁から離れてしまう)場面が増えてくるでしょう。自分の技術不足ではなく、靴の形状的に限界を感じ始めた時こそ、ダウントゥ形状を取り入れた2足目へステップアップする最適なタイミングです。
最初からソリューションなどの中級者モデルを買っても良いか

結論から申し上げますと、初心者がいきなり「ソリューション」のようなハイエンドモデルや、強烈なダウントゥ(爪先が下がった形状)を持つシューズを購入することは、基本的におすすめしません。
最大の理由は「痛み」と「技術のミスマッチ」です。上級者向けモデルは、小さな足場に強い力を伝えるために足指を極端に曲げた状態で固定するよう設計されており、履くだけで激痛を伴うことが珍しくありません。足裏の感覚や痛みを逃がす技術が未熟な段階でこれらを履くと、登る楽しさを感じる前に痛みに耐えきれず、クライミング自体を辞めてしまう原因になりかねません。
また、ハイエンドモデルは「足指でかき込む」などの特定の動作に特化しているため、基礎的な足置き技術がない状態で使用すると、シューズの性能に頼りすぎた雑なムーブが身についてしまう恐れもあります。まずはフラットで癖のないエントリーモデルで正しい足の使い方を覚え、グレードが上がって壁にぶつかった際に、その壁を超えるための武器として2足目にハイエンドモデルを選ぶのが、最も効率的な上達の道筋です。
ジム用と外岩用でシューズを使い分けるべきか
最初の一足目に関しては、使い分ける必要はありません。今回ご紹介したエントリーモデルの多くは、耐久性とエッジング性能(細かな足場に乗る力)のバランスが取れており、インドアのジムだけでなく、自然の岩場(外岩)でも十分に通用するポテンシャルを持っています。
初心者のうちは、環境が変わるごとに靴を変えるよりも、慣れ親しんだ一足で足裏の感覚(固有受容感覚)を徹底的に養う方が上達に繋がります。「ジムのホールドと外の岩で、足の置き方がどう違うか」を同じ靴で体感することで、より繊細な足使いを学ぶことができるからです。
グレードが上がり、ジムでは傾斜の強い壁で柔らかい靴を使い、外岩では極小の結晶に立ち込むために硬い靴を使う、といった明確な目的が出てきた段階で、2足目以降として使い分けを検討すれば十分です。
男性がレディースモデルを履いても問題はないか
全く問題ありません。むしろ、足型によっては男性であってもレディースモデル(あるいは「Low Volume」モデル)を選んだ方が、フィット感が劇的に向上するケースが多くあります。
クライミングシューズにおける「メンズ(M)」と「レディース(W)」の違いは、単なるデザインや色だけでなく、設計思想にあります。一般的にレディースモデルは、メンズモデルに比べて「踵(ヒールカップ)が小さめ」「甲の高さ(ボリューム)が低め」「ミッドソールが柔らかめ(体重が軽い人向け)」に作られています。
そのため、足幅が細い男性や、踵が小さくて靴が脱げやすい男性、あるいは体重が軽く硬いソールだと弾かれてしまう男性にとっては、レディースモデルの方が適正サイズであることは珍しくありません。性別という枠にとらわれず、ご自身の足の形に最も隙間なくフィットするモデルを選ぶことが、クライミングシューズ選びの鉄則です。
2足目のシューズを購入する最適なタイミングはいつか
2足目を検討すべきタイミングは、主に「物理的な寿命」と「技術的な限界」の2つが訪れた時です。
1つ目は、前述の通りソールが摩耗して穴が空いたり、リソールが必要になったりした時です。これを機に、消耗したエントリーモデルをウォーミングアップ用やジムトレーニング用に回し、本気トライ用の新しい靴を導入するのがスムーズです。
2つ目は、技術的に「今の靴では登れない」と明確に感じた時です。例えば、ジムで4級〜3級の壁に挑戦し始め、強傾斜の壁で足が残せなかったり、ヒールフックが脱げてしまったりする場合がこれに当たります。自分の技術不足ではなく、シューズの形状や性能が課題解決のボトルネックになっていると感じたら、その課題(強傾斜、極小エッジなど)に特化した中級者以上のモデルへとステップアップする絶好の機会と言えます。
まとめ|快適な一足を見つけてクライミングを楽しもう
クライミングシューズ選びにおいて、初心者が最も優先すべきは「痛すぎず、快適に登り続けられること」です。
どんなに高性能なシューズも、痛くて履いていられなければ意味がありません。まずは自分の足型に合い、長時間履いてもストレスの少ない「相棒」を見つけることが、三日坊主にならずにクライミングという素晴らしいスポーツを長く楽しむための第一歩です。
レンタルシューズを卒業し、マイシューズを手に入れた瞬間の高揚感は格別です。その一足が、あなたの登れる壁の高さを引き上げ、新しい景色を見せてくれることでしょう。ぜひ本記事を参考に、後悔のないファーストシューズを選んでください。
ジム用と外岩用でシューズを使い分けるべきか

初心者のうちは、わざわざジム用と外岩用でシューズを分ける必要はありません。多くのエントリーモデルは、インドアでの練習だけでなく、外岩での使用にも耐えうる耐久性と汎用性を備えて設計されているからです。特に初心者が選ぶことの多いフラットで剛性のあるシューズは、岩場のスラブ(緩傾斜)や垂壁での立ち込みにも適しており、どちらの環境でも違和感なく使用できます。
ただし、衛生面とマナーには十分な配慮が必要です。外岩で使用したシューズのソールには、目に見えない土や砂が付着します。そのままジムのホールドに乗ると、砂が研磨剤のように働いてホールドを削ってしまったり、摩擦係数が下がって他の利用者が滑りやすくなったりする原因となります。外岩で履いたシューズを再びジムで使用する際は、必ず濡れ雑巾などでソールを念入りに拭き、汚れを完全に落としてから持ち込むようにしましょう。
グレードが上がり、岩場での極小のエッジ(突起)に立つ必要が出てきたり、ジムで現代的な巨大なボテ(ハリボテ)に対応する必要が出てくれば、それぞれの特性に特化したシューズを使い分ける意義が生まれますが、最初の一足に関しては「どこでも行ける相棒」として使い倒して問題ありません。
男性がレディースモデルを履いても問題はないか

結論から申し上げますと、男性がレディースモデルを選んでも全く問題ありません。むしろ、足型によってはメンズモデルよりもレディースモデル(あるいは「ウーマン」表記のモデル)の方が圧倒的にフィットし、パフォーマンスが向上するケースが多々あります。
クライミングシューズにおける「レディース」という区分は、単にデザインや色が女性向けであるという意味合いよりも、設計上の「ボリューム(容積)」の違いを指していることがほとんどです。近年、多くの海外メーカーでは、男性用を「ハイボリューム(HV)」や「レギュラー」、女性用を「ローボリューム(LV)」と呼び変えて展開する動きも進んでいます。
具体的には、レディースモデルはメンズモデルに比べて「足幅が細い」「甲が低い」「踵(ヒールカップ)が小さい」あるいは「くるぶしの位置が低い」という構造的特徴を持っています。そのため、足の実寸に対して足幅が細い男性や、踵が小さくてメンズモデルだとヒールが余ってしまう(浮いてしまう)男性にとっては、レディースモデルこそが「正解」となる場合が少なくありません。実際、トップレベルの男性クライマーでも、ヒールフックの掛かりや踵の収まりの良さを重視して、あえてレディースモデルを愛用する選手は珍しくありません。
ただし、購入の際はサイズ表記に注意が必要です。同じブランドでもメンズ(Mens)とレディース(Womens)では、USサイズの換算基準が異なる場合が多いため、単純に普段のサイズ感で選ぶと失敗するリスクがあります。性別というラベルや色にとらわれず、必ず実店舗で両方のモデルを履き比べ、「自分の足の形(ボリューム)」に隙間なくフィットする方を選ぶことこそが、上達への近道です。
2足目のシューズを購入する最適なタイミングはいつか

2足目を検討すべき最も明確なサインは、「靴の性能不足」を肌で感じた瞬間です。具体的には、ジムのグレードで4級から3級の課題に挑戦し始めた頃がひとつの目安となります。
このレベルになると、壁の傾斜が強くなり、足をホールドに残しながら体を引き上げる「かき込み」の動作や、極小の足場につま先だけで乗り込む繊細な技術が求められます。エントリーモデルの多くはフラットで硬めに作られているため、こうした強傾斜や複雑な足技には構造上対応しにくい場面が出てきます。「自分の技術不足ではなく、靴の形状的にこれ以上は厳しい」と感じたら、ダウントゥ形状や柔らかいソールを持つ中級者モデルへの移行を検討しましょう。
また、期間としては週1〜2回のペースで半年から1年程度が一般的です。この頃には足の指の力も強くなっており、より攻撃的な形状のシューズでも履きこなせる土台ができているはずです。なお、2足目を購入しても1足目が無駄になることはありません。長時間履いても楽な1足目はウォーミングアップ用やスラブ(緩傾斜)用として、攻めた2足目は本気トライ用として使い分けることで、シューズの寿命を延ばしつつ快適に登り続けることができます。
まとめ|快適な一足を見つけてクライミングを楽しもう

マイシューズを手に入れることは、単に道具を揃えるという行為以上に、クライマーとしての意識を変える大きな一歩です。レンタルシューズでは味わえなかった足裏の感覚や、滑りやすいホールドに立ち込めた瞬間の感動は、クライミングの楽しさを何倍にも広げてくれるでしょう。
初めての一足選びにおいて最も大切なのは、他人の評判やランキングの順位よりも、「自分の足に合っているか」という一点に尽きます。どれほど高性能なシューズであっても、痛すぎて履いていられなければ意味がありません。まずは「無理なく履ける快適なサイズ」を選び、ジムに通う習慣を途切れさせないことが、結果として最短の上達ルートになります。
本記事で紹介した知識を持って実店舗へ足を運び、納得いくまで試着を繰り返してみてください。あなたの足の形や登る目的に寄り添う「最高の相棒」が見つかれば、目の前に立ちはだかる壁も、きっと今までとは違った景色に見えてくるはずです。お気に入りのシューズと共に、次なるグレードへの挑戦を心から楽しんでください。